MENU

運送業の営業所を新設・増設・移転する方法を解説

運送業のことを法律で「一般貨物自動車運送事業」といいます。

企業や個人が、この一般貨物自動車運送事業(以下、運送業)を始めるには、トラックなどに加えて、営業所を持っていなければならないことが法律で定められています。

そこでこの記事では、営業所にフォーカスを当てて解説します。

この記事を読めば、運送業者が営業所を新設、移転、増設する方法がわかります。

営業所がないと運送業の「許可が下りない」

運送業に関する法律である「貨物自動車運送事業法」は、運送業を始める企業などに営業所の設置を求めています。つまり営業所を持っていない企業は運送業を始めることができません。

では、営業所を設置して、トラックを買って運転者を雇えば運送業を始められるのか?というと、そうではありません。

運送業許可とは

企業などが運送業を始めるには、国土交通大臣もしくは管轄の運輸支局長から運送業の許可を得る必要があります。

ここでいう運送業(=一般貨物自動車運送事業)とは、「他人の需要に応じ、有償で、自動車(三輪以上の軽自動車及び二輪の自動車を除く)を使用して貨物を運送する事業であって、特定貨物自動車運送事業以外のもの」のことです。

したがって、自社の荷物を運送したり、軽自動車や自動二輪で運送したり、運賃を得ないで運送したりする場合は運送業ではないので許可は要りません。

必要なことは営業所を含め5つ

運送業の許可を得るには、申請要件を満たす必要があります。
要件のうち 1)営業所が必要であること、は上記で紹介したとおりです。
そのほかの要件には、2)最低6人の人員、3)最低5台のトラック、4)十分な資金、5)法令試験に合格すること、があります。

ちなみに、最低6人の人員の内訳は以下のとおり。

  • 運行管理者 1人(兼務不可)
  • 運転者(ドライバー) 5人
  • 整備管理者 1人(運転者などとの兼務が可能)
  • 運行管理者補助者 1人(運転者などとの兼務が可能)
  • 整備管理補助者 1人(運転者などとの兼務が可能) 

運転者などが整備管理者の兼務をすれば、6人で要件を満たすことができます。

上記の5つの要件を満たせすことが運送業の許可の条件になります。

許可を取らなくても営業できる一般の会社と違い、運送事業者は要件に合致した営業所を設置する必要があり、好きな場所、好きな広さで事業を始めることはできません。
営業所の選定から大事になってきますので、ポイントをしっかりと押さえる必要があります。
では、営業所の条件について詳細に説明いたします。

用語解説 営業所の「新設」「増設」「移転」とは?

新設というと、まったく存在しなかった施設が新たにできることを指しそうですが、運送業の営業所の「新設」は、既存の営業所とは別に営業所を置くことを指します。(営業所の新設は営業所の増設と呼ぶこともあります。)

運送業の許可を得るには営業所が必要ですが、この最初の営業所は認可申請(新規・増設)ではなく新規許可申請で審査されることになります。
既存の営業所とは別に、営業所を追加することを「新規」「増設」といい、別の場所に移すことを移転といいます。
そして既存の営業所を別の場所に移す場合は「移転」といいます。

以上のことを箇条書きでまとめるとこのようになります。
・運送業を始めるとき(新規許可申請)
・既存の運送業者が既存の営業所とは別に営業所をつくることを「新設」「増設」と呼ぶ
・既存の営業所を別の場所に移すのは「移転」という

運送業の営業所が満たすべき条件

運送業の営業所の条件を紹介します。新規に許可を取得するときも、営業所新設の時も、次の条件をクリアしなければなりません。
 
■使用権原を有する土地建物でなければならない

  • 運送業という事業に使う営業所(=土地と建物)でなければならない
  • 自己保有の場合は登記簿謄本で使用権原の保有を証明しなければならない
  • 借りる場合は2年以上の賃貸借契約書で使用権原の保有を証明しなければならない

■都市計画法、農地法、建築基準法に抵触しないこと

  • 住居専用地域などに営業所は設置できない
  • 市街化調整区域は原則不可(例外的に許可されることもある)
  • 農地でないこと

■営業所としての機能を満たすこと

  • 狭い物置や小さなプレハブを置くだけでは営業所と認められず、毎日の運行管理などの業務に必要なスペースがある
  • 事務机、椅子、アルコール検知器、コピー機などの設備があること

■営業所または車庫に休憩を設けなければならない

  • 休憩・睡眠施設は、運転者が実際に休憩や睡眠を取れる場所でなければならない
    (運転者の勤務形態によっては、睡眠施設は必要ない場合もあります)
  • 寝具など必要な設備・備品を備えていなければならない

■原則、営業所に車庫を併設しなければならない

  • 営業所に車庫を併設しなければならないのは、点呼などの運行管理を行うため
  • ただし「併設」や「営業所と車庫の距離」については地方運輸局ごとにルールが決まっている
  • 例えば関東運輸局であれば、東京23区なら営業所と車庫の距離は20km以内でなければならない、と定めている。地方になると5km以内でなければならない、というルールになることも

*営業所に車庫が併設していない場合のルールは後述します

■車庫の面積

  • 最低5台のトラックを置くことができる面積が必要(運送業許可が下りるには、最低5台のトラックを保有しなければならないため)
  • トラックと車庫の境界の間は50cm以上離れていなければならない
  • トラックとトラックの間は50cm以上離れていなければならない
  • トラックが安全に車庫に出入りできなければならない
  • 以上の条件をクリアできれば月極駐車場でも問題ない

≪運送事業許可 施設の使用権原について≫

詳細解説! 施設の使用権原について
運送業許可を取得する際、「営業所」「車庫」「休憩・睡眠施設」についての使用権原があることを証明する必要があります。何を提出すればよいのでしょうか?
【自己所有の場合】
不動産の登記簿謄本を提出します。
謄本の所有者欄を見て、本当に自己所有になっているか確認しましょう。
相続した土地・建物で、親族の名義になっていたというケースがありましたので、注意が必要です。
また、よくあるケースとして、会社ではなく社長個人の所有になっている場合は次に説明する賃貸の場合と同様に、社長から会社への使用承諾書を発行するなどの対応が必要です。
【賃貸の場合】
原則、賃貸借契約書を提出します。もし賃貸借契約書がない場合は、使用承諾書を用意します。
賃貸の場合に注意すべき項目として、「使用期間」や「使用目的」があります。
使用期間は原則2年以上必要です。また使用目的は、営業所であれば「営業所」、車庫であれば「車庫」「駐車場」と記載があることが求められます。
もし要件を満たさない賃貸借契約書になっていた場合、契約書の修正をするか、追加で要件を満たす使用承諾書をもらう必要が出てきます。
このような場合、相手方がいる話なので、時間がかかることが多いです。スムーズに申請を行いたい方は、あらかじめ確認しておくことをおすすめします。

車庫が営業所に併設されていない場合の注意

国土交通省は運送業者に、車庫を営業所に併設することを求めていますが、都心部では土地確保が難しいため、例外的に「5km以内であればよい」や「20km以内ならよい」といったルールを設定しています。距離は地域によって異なります。

しかし、営業所と車庫が離れることが許されるのは、運行管理などに支障が出ない場合に限られます。

例えば営業所と車庫の距離が数km離れていて、運行管理者が営業所だけにいて、車庫にいない場合、運行管理に支障が出る可能性があります。その場合は、営業所と車庫の間の連絡方法を確保しなければなりません。さらに点呼場所も決めなければなりません。

このような内容は、申請時に提出する事業計画に盛り込む必要があります。

営業所と事業計画の関係については次の章で解説します。

営業所に関することは事業計画に記載する

運送業の許可申請を行う場合(運送業をこれから始める場合)、申請時に事業計画を添付しなければならないのですが、その事業計画に営業所について記載しなければなりません。

先ほど「運送業の営業所の条件」で紹介した条件をクリアした営業所を設置するとともに、事業計画に「その営業所が条件をクリアしている」という内容を盛り込まなければなりません。

事業計画に記載する内容

営業所について事業計画に記入する事項は次のとおりです。

  • 営業所の名称(例えば「○○営業所」)
  • 営業所の住所、電話番号
  • 休憩・睡眠施設の住所、収容能力
  • 車庫の住所、道路の幅員、収容能力

営業所の「新設」「増設」について

既存で営業所を持っているけれど、運送業の営業所をもう一か所作りたいという場合の営業所の新設(増設という場合もあります)について解説します。
運送業者は、既存の営業所とは別に営業所を新設する場合も、新規許可時と同様の要件をクリアしなければなりません。
つまり運送業者は、事前の手続きをせずに「今の営業所が手狭になったから別の場所に事務所と駐車場を借りてそこを新営業所とする」といったことはできないので注意が必要です。

例えば一般企業であれば、ビルの2階の事務所が手狭になったので3階も借りる、というように、オフィスの設置を自由に行うことができます。
同様に、東京に本社がある企業が大阪に支店を開設することも自由で、(許認可が必要な業種を除き)いずれも役所の許可は要りません。
しかし運送業者にはそれが許されず、営業所を新設するときも管轄の運輸支局長の変更許可を受けなければならないのです。

正式名称は事業計画変更認可申請という

営業所の新設とは、運送業許可を申請したしたときに提出した事業計画を変更するという意味を持ちます。そのため営業所の新設の正式名称は、事業計画変更認可申請といいます。

この申請は、許可を管轄する地方運輸局に対して行います。
タイミングとしては、営業を開始する前に認可を取得しますので、事後とならないよう注意が必要です。

営業所新設の変更認可申請は5つの要件をクリアする必要がある

運送業者が営業所を新設して認可申請を受けるための要件は大きく5つあり、次のとおりです。

  1. 申請者に関する要件
  2. 人員に関する要件
  3. 営業所に関する要件
  4. 車庫に関する要件
  5. トラックに関する要件

それでは、順番に1つずつ確認していきます。

申請者に関する要件

営業所の新設を申請できるのは、すでに運送業者(=一般貨物自動車運送事業の許可事業者)である企業などです。既存の営業所とは別に営業所を新設するので、この要件は当然といえます。

もし申請者が、車両停止などの行政処分を受けていたら、行政処分を受けることがなくなった日から3カ月以上経過している必要があります。もし禁固刑以上の刑を受けていたら、刑を受けることがなくなってから2年以上経過していなければ申請できません。

人員に関する要件

新設する営業所には、運行管理者、整備管理者、運転者が必要です。

運行管理者は運行管理者資格者証を保有した人でなければなりません。運行管理者はトラック29台までは1人以上必要で、それ以後29台増えるごとに1人追加しなければなりません。つまり29台なら運行管理者は1人でも大丈夫ですが、30台になると2人必要です。

整備管理者は、トラック台数にかかわらず営業所ごとに1人以上在籍します。

整備管理者は
・3級以上の整備士資格
・整備管理者選任前講習受講+1年の実務経験
上記2つのうち、どちらかが必要です。

運転者の数はトラックの台数に応じた人数になります。運転者はさらに、日雇いでないこと、2カ月以内の期間を定めて雇用されている人でないこと、といった要件があります。

営業所に関する要件

新設の営業所の要件は、運送業許可を得るときの要件(運送業を始めるときの要件)と同じであり、以下のとおりです。

  • 使用権原を有する土地建物でなければならない
  • 都市計画法、農地法、建築基準法に抵触する場所にある営業所ではない
  • 営業所としての体裁が整っていなければならない
  • 営業所または車庫に休憩・睡眠施設を設けなければならない

車庫に関する要件

車庫の要件はも、新規許可取得の際と同じ要件となり、以下のとおりです。

  • 営業所または車庫に休憩・睡眠施設を設けなければならない
  • 原則、営業所に車庫を併設しなければならない
  • 一定面積以上を確保しなければならない

トラックに関する要件

トラックは最低5台確保する必要があります。
軽自動車を含むことはできません。

営業所新設の流れ

運送業者が営業所を新設するときは、次のような流れで進めていくことになります。

ステップ
要件をクリアした営業所、車庫、車両、人員を確保する

前述の要件をクリアした営業所・車庫を設置し、車両と人員を確保します。

ステップ
営業所新設にかかる事業計画変更認可申請書を作成する

「事業計画変更認可申請書」を作成します。
新設する営業所の所在地や、運行管理者・整備管理者の有資格者を確保できているかどうか、営業所の使用権原があるか等の内容を記載し、必要書類を添付します。
営業所に車庫を設置する場合は車庫の面積、見取り図等も必要です。

ステップ
同申請を管轄の地方運輸局に提出する

「事業計画変更許可申請書」および添付書類を、管轄の陸運支局に提出します。

ステップ
地方運輸局が申請を審査する

運輸支局の標準処理期間は1か月~2か月です。

ステップ
営業所の新設が認可される(認可証が発行される)

運輸支局にて認可証が交付されます。

ステップ
人員の選任の届出

運行管理者・整備管理者の選任届を提出します。

ステップ
車両の登録

車検証の書き換え、ナンバー変更が必要な場合は変更を行います。

ステップ
事業開始

営業所の新設には2~3カ月かかる

営業所の新設の手続きが完了するまで、スムーズにいっても2、3カ月かかります。

手続きだけで2、3カ月なので、営業所を探す、契約する、人員の確保、書類作成を含めるともっと日数が必要になります。
営業所の新設を検討する場合は、数か月先を見据えて段取りを組むようにし、タイトなスケジュールは避けたほうが無難です。

営業所の移転について

次に、営業所の移転について解説します。
既存の営業所を閉鎖して、別の場所に営業所を設置することを移転といいます。

移転の方法は新設とほぼ同じで、移転前に事業計画変更認可申請をします。

過去の事例紹介【車庫の貸主が自治体だったケース】

事例 
・車庫の賃貸借契約で、貸主が自治体(窓口は町役場)
・賃貸の契約期間が1年更新というのきまりがあった(毎年、使用方法に問題ないかの審査の上更新)

結果
使用権原が2年以上なければいけないという要件を満たせず、運送業の申請窓口で引っかかりました。
町役場は当初、原則単年契約のスタンスを崩しませんでしたが、運送業の許可申請するためにどうしても2年の使用期間が必要な旨を伝えた上で粘りづよく交渉しました。
最終的には目的外の使用は行わない等の誓約書を提出することで、翌1年分も更新する旨の使用許可通知書を取りつけることができ、運送業の許可申請を受け付けてもらえたというケースです。
許可を取得するためには、全ての要件を一つずつクリアしていく必要があります。
そんなとき、各要件の満たし方について詳しい専門家がそばにいれば、非常に安心ではないでしょうか?

まとめ 

今回の記事では、以下について説明しましたので、箇条書きでまとめます。

●営業所は運送業を始めるときに必要

●運送業の営業所の場合、「新設」はほぼ「増設」と同じ意味

●営業所を新設するには、1)申請者に関する要件、2)人員に関する要件、3)営業所に関する要件、4)車庫に関する要件、5)トラックに関する要件をクリアする必要がある

●営業所を新設するには準備から認可まで4~5カ月かかる

●営業所の移転の手続きの難易度はほぼ新設の手続きと同じ

営業所の新設も移転も、新規許可を取得するときと同程度の要件を満たす人員、土地建物、トラックなどを確保しなければなりません。
要件の確認を怠ると認可が下りず、時間がどんどんかかってしまったり、認可申請に時間を取られて本来の業務ができなくなってしまう恐れもありますので、ぜひ運送業許可の経験豊富なWith.行政書士法人にご相談ください。

クリックするとお問い合わせフォームに遷移します