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運送業許可の譲渡譲受の方法と、メリット・デメリットを解説

企業などがトラックを使って運送業を行うとき、運送業許可が必要になります。

つまり運送業許可がないと、トラックを使った運送業を行うことはできません。

運送業許可を得る方法には、新規に許可を得るほかに、運送業許可を得ている企業などから譲渡譲受によって得る方法があります。

譲渡譲受とは、譲り渡して譲り受けること、という意味です。

「新規に運送業許可を取ることは大変」「譲渡譲受なら素早く運送業許可を得ることができる」と理解している方がいるかもしれませんが、必ずしもそうとはいえません。

この記事では、運送業許可の譲渡譲受の方法と、メリット・デメリットを解説します。

運送業許可とは

運送業許可の譲渡譲受を解説する前に、そもそも運送業許可とはどのような制度なのか説明します。

運送業許可のルールを知っておくと、譲渡譲受を理解しやすくなると思います。

国土交通大臣などが一般貨物自動車運送事業を許可すること

運送業許可とは、正式には、国土交通大臣・地方運輸局長が企業などに一般貨物自動車運送事業を許可すること、です。

貨物自動車運送事業法は一般貨物自動車運送事業を「他人の需要に応じ、有償で、自動車(三輪以上の軽自動車及び二輪の自動車を除く)を使用して貨物を運送する事業であって、特定貨物自動車運送事業以外のもの」と定義しています。これが運送業です。

要するに運送業(=一般貨物自動車運送事業)とは、他人から荷物の運送の依頼を受けて、トラックを使って荷物を運送して運賃を得ること、です。

そして運送業を行うには、国土交通大臣または地方運輸局長の許可を受ける必要があります。

許可が要らない運送とは

予備知識として、運送業許可が要らない運送を紹介します。

運送業許可が要らない運送とは、先ほど紹介した一般貨物自動車運送事業の定義に当てはまらない運送のことで次のとおりです。

■運送業許可が要らない運送(一般貨物自動車運送事業の定義に当てはまらない運送)

●自社の荷物の運送

●軽自動車や自動二輪車での運送(貨物軽自動車運送事業に該当し、別の手続きが必要)

●運賃を得ない運送

運送業許可を取得するのが難しいのは、複数の要件があるから

話題を運送業許可に戻します。

どのように許可を得るのかというと、運送業を行いたいと考えている企業や個人事業主が地方運輸局に、各要件を満たしていることを証明する許可申請書および添付書類を提出します。

許可申請書を提出する、と簡単そうに聞こえるかもしれませんが、実際はすんなりとはいきません。
それはなぜか、許可の各要件を満たしているかの審査があり、それを全てパスする必要があるからです。

要件を満たしていることを証明するのは申請者になるので、裏付けとなる証明書類を収集・作成しなければなりません。

満たさなければならない要件~新規も譲渡譲受もほぼ同じ

新規に運送業許可を得ることが難しいなら、譲渡譲受で運送業許可を得る方法のほうが近道ではないか、と感じるかもしれませんが、実際はそれほど単純には事が進みません。

なぜなら、新たに運送業を始める企業などは要件を満たさなければならず、その要件は新規でも譲渡譲受でもほとんど同じだからです。

「要件を満たす」とは、運送業を始める準備といえます。

要件について解説していきます。

まず必要なのは人、場所、トラック、資金

「要件」を難しく考える必要はありません。端的にお伝えすると、用意しなければならないのは、まずは場所トラック資金です。

 人:最低6人

運送業許可を得るには、最低6人が必要になります。その内訳は運転者5人、運行管理者1人です。運行管理者は運転者を兼務できません。このほかに整備管理者も必要ですが、これは運転者か運行管理者が兼務できます。

 場所:営業所、休憩室、駐車場

運送業許可を得るには、営業所と運転者たちが休む休憩室が必要です。これは事務所に休憩室があれば足ります。もちろん賃貸でもかまいません。
駐車場も必要で、出入口の幅や、十分に車両を格納することができるスペースがあることの要件があるので、それを満たす場所が必要になります。

 トラック:最低5台

運送業許可を得るには、車検証に「貨物」と書かれているトラックを最低5台保有する必要があります。
ただし、ミキサー車など、運ぶものによっては用途が「貨物」ではなく「特種」となっている車両でも可能です。

 資金:「千万円」規模

これらの人、場所、トラックを確保するために資金が必要になるのは当然ですが、それ以上に資金は必要になります。

運送業許可の申請では、申請者(企業など)の残高証明書も提出します。残高証明書は銀行などの金融機関が発行します。

その残高は1)役員報酬の6か月分、2)従業員給与の6カ月分、3)トラックの修繕費やガソリン代の6か月分、4)トラックのリース料やローンの6カ月分、5)事務所や駐車場の賃料の12カ月分、などをまかなえる額が必要になります。最低でも1千万円を超える資金が必要です。

法令試験に合格する

運送業許可申請を行ったら、申請者は法令試験を受けそれに合格しなければなりません。

法令試験は〇×形式または選択式で、運送業に関する法律の知識などが問われます。

要件に関する審査が通って、さらに法令試験に合格して初めて運送業許可がおります。

事業者としての体制を整える

運送業を行うには、許可を取得したあと、事業者としての体制を整える必要があります。
「事業者としての体制」とは、役員や従業員を社会保険に加入させたり、36協定を締結して労働基準監督署に届け出たりすることを指します。
36協定とは、時間外と休日労働に関する協定のことで、会社側と労組または従業員の代表と締結する必要があります。
いくら要件を満たして許可を取得できたとしても、本格的な事業は許可を取ったところから始まります。
事業として継続していける体制をあらかじめ整えておくということは、お客様から預かった荷物を無事に届ける、従業員に給与を支払い続けることに直結しますので、とても大切です。

どのように運送業許可を譲渡譲受するのか

ここまでで運送業許可の基礎知識を説明できたので、いよいよ譲渡譲受について解説していきます。

譲渡譲受の認可と営業権の譲渡譲受で成立する

そもそも譲渡譲受とは、1)渡す側が、2)ものを、3)受ける側に、4)譲ること、となります。コンビニでおにぎりを買っても譲渡譲受が成立します。

運送業許可はいわば営業権なわけですが、それを譲受譲渡という形で売買したり、無償で相手に渡したりします。

「普通のもの」であればこの4つのステップで譲渡譲受は完了するわけですが、運送業許可はそれだけで終わりません。

では4つのステップのほかに何が必要になるのかというと、国土交通省の認可です。

正式な用語を使って説明すると、地方運輸局に「一般貨物自動車運送事業の譲渡譲受認可申請」を行って認可を受けることで、運送業許可の譲受譲渡が完了します。

一般的なイメージと特殊な事例

運送業許可の譲渡譲受の形態はいくつかあります。

最もイメージしやすいのは、ある会社が運送業を行っていたところ、もうその運送業を行わないことにしたので、別の会社に運送業許可を譲渡するケースではないでしょうか。

あるいは、ある会社の経営者が運送業を始めようと考えていたところ、知り合いの会社が運送業をやめることにしたので、運送業許可を譲受してもらうことにしたケースです。

元々運送業許可を持っていて、それを譲り渡す側を譲渡会社といいます。

譲渡会社から運送業許可を譲り受ける側を譲受会社といいます。

そのほかの運送業許可の譲渡譲受の形態には例えば、運送業を手がけている個人事業主が会社をおこしたので(法人成りしたので)、その会社に運送業許可を譲渡譲受するケースもあります。

あるいは、運送業をしている会社が別の会社に買収された場合、運送業をしていた会社と買収した会社の間で運送業許可の譲受譲渡が行われます。

また、運送業を含む複数の事業をしている会社が子会社をつくり、その子会社に運送業を任せるので両者の間で運送業許可の譲受譲渡が行われることもあります。

以上の内容を箇条書きでまとめておきます。

●運送業許可を持つ会社(譲渡会社)と、運送業許可を持たない別の会社(譲受会社)の間で運送業許可を譲渡譲受する

●個人事業主とその人がおこした会社の間で運送業許可を譲渡譲受する

●買収された会社と買収した会社の間で運送業許可を譲渡譲受する

●親会社と子会社の間で運送業許可を譲渡譲受する

審査が行われるのは新規と同じ

譲渡譲受を行うには地方運輸局に譲渡譲受認可申請を行うのですが、このとき各要件の審査が行われます。

このとき行われる審査は、新規に運送業許可を得るときの審査とほぼ同じです。

つまり、これから運送業許可を譲り受ける会社(譲受会社)は、運送業を行える要件を満たしているかどうか審査されます。

譲受会社は、人(最低6人:内訳、運転者5人、運行管理者1人、整備管理者兼務者)、場所(営業所、休憩室、駐車場)、トラック(最低5台)、資金(1千万円を超える資金)を持っている必要があります。

許可取得後は当然、健康保険、厚生年金、労災保険などへの加入や36協定の締結といった事業者としての体制も整える必要があります。

ただし譲受会社は、人、場所、トラックなども譲渡会社から譲り受けることもできます。譲渡会社の運転手などを譲受会社が雇用して、場所やトラックを譲渡会社から購入すればよいのです。

運送業許可を譲渡譲受で得るメリットとデメリット

ここまでの解説で、「譲渡譲受でも新規と同じ要件が課されるなら、新規のほうがよいのではないか」という疑問が湧くと思います。

これは当然の疑問といえます。

そのため、これから運送業を始める企業などは、譲渡譲受で運送業許可を得るメリットとデメリットを考慮して、メリットが多ければ譲渡譲受を行う、デメリットが多ければ新規許可を得る、と判断することができると思います。

【メリットその1】審査期間が短い

譲渡譲受のメリットは、地方運輸局での審査期間が新規より短いことです。

譲渡譲受が認可されるまで約3カ月、新規の運送業許可がおりるまで約5カ月とされています。

ただこれは審査内容によって異なるのであくまで目安と考えておいてください。

【メリットその2】登録免許税が要らない

新規に運送業許可を得るには、登録免許税をとして12万円を納付する必要がありますが、譲渡譲受認可にはそれが要りません。

【メリットその3】手続きが少し楽

譲渡譲受認可も新規運送業許可も、審査される要件はほぼ同じですが、認可後(新規の場合許可)の手続きは少しだけ譲渡譲受のほうが楽です。

譲渡譲受で運送業許可を得れば、運輸開始届出や運輸開始前の報告は要りません。ただし、譲渡譲受が完了したことを示す終了届出を提出する必要はあります。

【メリットその4】譲渡会社から経営資源を譲ってもらえるかも

これは交渉次第となりますが、譲受会社は譲渡会社から、経営資源を譲ってもらえるかもしれません。経営資源とは、人、場所、トラックなどのことです。

人も場所もトラックも探して調達するには時間と手間がかかります。譲ってもらえれば、素早く事業を開始できます。

また、譲渡会社から顧客を紹介してもらえるかもしれません。

【デメリットその1】交渉が難航する可能性がある

ここから譲渡譲受のデメリットを紹介します。

デメリットその1は、譲渡譲受の交渉が難航する可能性があることです。

譲渡会社も譲受会社も自社が有利になる形で譲渡譲受を終わらせたいと考えるはずで、そうなると譲受会社の利益が譲渡会社の損失になったり、その逆が起きたりすることは珍しくありません。

例えば、譲渡会社がすべての従業員を採用することを譲渡譲受の条件とした場合、譲受会社は好ましくない従業員がいても採用しなければなりません。

また、譲渡会社がこれまで使ってきたトラックを相場より高く引き取って欲しいと譲受会社に要請するかもしれません。

【デメリットその2】行政処分も引き継ぐ

もし譲渡会社が行政処分を受けている場合、譲受会社がそれも引き継ぐことになります。これは大きなデメリットになりうるので、よく確認するようにしてください。

【デメリットその3】自主自立ではない

これから運送業を始める会社に潤沢な資金があり、運送業許可の要件を問題なくクリアできる場合、譲渡譲受のメリットはあまり受けられません。これはそのまま譲渡譲受のデメリットになるでしょう。

譲渡譲受はいわば他人の力を借りることであり、新規の運送業許可はいわば自主自立でやっていくことです。経営者が自分のカラーを出したい場合は自主自立のほうがよいと判断できるかもしれません。

【デメリットその4】購入価格が高額だとデメリットになる

譲渡会社によっては、運送業許可を有償で買い取って欲しいと申し出ることもあります。

つまり運送業許可を営業権と考え、譲渡譲受を営業権の売買と考えているわけです。

運送業許可を売買すること自体は合法ですし、譲渡会社としては経済合理性があります。

しかしその金額が高額になると、譲受会社にはデメリットにしかなりません。「それなら新規に運送業許可を取得する」と判断できます。

例えば、譲渡会社の優良顧客を引き継ぐことができるなら譲受会社の経済的メリットが大きくなるので、運送業許可の買い取りも検討に値します。

まとめ~自社の状況に照らし合わせて判断を

記事の内容を箇条書きでまとめます。

●運送業許可の譲渡譲受とは、運送業許可を持っている事業者から、運送業許可を譲り受けること

●運送業を始めるにはそのほかに、新規に運送業許可を得る方法がある

●運送業許可の譲渡譲受を行うには要件をクリアして地方運輸局の認可を受ける必要がある

●要件は譲渡譲受も新規許可もほぼ同じ

●譲渡譲受のメリットは、審査期間が短い、登録免許税が要らない、認可後(新規の場合許可後)の手続きが少し楽、経営資源を譲ってもらえるかもしれない

●譲渡譲受のデメリットは、交渉が難航する可能性がある、行政処分も引き継ぐ、自主自立ではない

運送業を譲渡譲受で始めるか、新規許可を得て始めるかは、重要な経営判断となるでしょう。自社の状況から得られるメリットと被るデメリットを比較して、慎重に決断することをおすすめします。

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