建設業法に則って建設業許可を取得する場合、個人と法人のどちらで取得するのがおすすめなのか気になる人も多いのではないでしょうか。
建設業許可は一定の工事を行う際に建設業者がしなければならないものであり、個人事業主でも法人でも取得できます。
しかし、個人か法人のどちらかで取得するにあたってさまざまなメリット・デメリットがあるため、どんなメリットやデメリットがあるのか把握することが大切です。
それでは、建設業許可を取得するなら個人と法人のどちらがおすすめなのか、メリットやデメリット、違いについてご説明しましょう。
建設業許可とは?

建設業許可とは、建設会社が一定の工事を請け負う際に取得が求められるものです。
建設業許可を取得していなくても、以下の建設業務を請け負うことはできます。
- 建築一式工事以外の工事で、1件の請負代金の額が500万円未満の工事
- 建築一式工事で、請負代金の額が1,500万円未満、もしくは延べ面積が150平方メートル未満の木造住宅の工事
つまり、500万円工事のみ請け負う場合は建設業許可は必要がなく、500万円以上の請負金額(もしくは延べ面積)工事を行う場合は建設業許可が必要ということになります。
注意 500万円は税込みの金額
言い方を変えると、建設業許可を取得している会社は、500万円以上の工事を施工する能力があるということになります。
発注者や元請けから見た安心安全の観点から、また、仕事を受注できるようにするためにも建設業許可の取得を目指した方が良いでしょう。
とはいえ、現在個人事業主として建設業を営んでいる場合や、独立を考えている場合は、個人・法人のどちらで建設業許可を取得すると良いのか、というのが悩みの種になります。
個人で建設業許可を取得するメリット

個人で建設業許可を取得するメリットは、以下の通りです。
- 会社を設立する必要がない
- 法人と比べて社会保険の適用除外がある
- 赤字の場合は法人住民税が発生しない
それでは、個人で建設業許可を取得するメリットについて具体的にご説明しましょう。
1 会社を設立する必要がない
個人事業主が建設業許可を取得する場合、会社を設立する必要がないのが大きなメリットです。
法人の場合は会社を設立する必要があるので、定款や社印を作成したり、資本金の準備など多種多様で複雑な手続きを行わなければならず、非常に時間と手間がかかります。
法務局で登記申請をするために司法書士に依頼する場合、その分の費用や登録免許税が発生しますし、社会保険への加入が義務づけられていることから初期費用とランニングコストが発生します。
しかし、個人事業主であれば会社を設立する必要がなく、事業開始にあたっては税務署と県・市町村に開業届を提出すればよいため、会社を設立する際の煩雑な手続きを行わず建設業許可取得の準備を始められます。
2 法人と比べて社会保険の適用除外がある
法人と比べた場合、個人事業主の方が社会保険の面から見て負担が少ない場合があります。
法人の場合は、雇用している従業員の人数に関係なく社会保険に加入する義務があるので、例えば社長1人の会社でも社会保険料の支払いが発生します。
しかし、個人事業主の場合は雇用している従業員が4人以下だった場合、事業主として社会保険に加入する義務がないため、法人よりも経費が抑えられるのでお得です。
もしも従業員が5人未満で建設業許可を取得するなら、法人よりも個人事業主の方がおすすめできます。
ただし、個人事業主でも雇用人数に関わらず雇用保険には加入義務があります。
3 赤字の場合は法人住民税が発生しない
法人の場合、赤字になったときに気を付けなければならないのは、赤字になったとしても関係なく法人住民税を納税しなければならないことです。赤字になっても年間約7万円の法人住民税が発生しますが、個人事業主であれば赤字の場合は税金が発生しません。
なんで赤字なのに税払わなきゃいけないんだ、というのは実際にお客さんからよく聞きますし、加えて法人だと決算申告を税理士にお願いすることになり報酬が発生します。法人だと、どうしても法人税や消費税、法人事業税、法人住民税の計算等を行わなければならないので、基本的に税理士に依頼して申告することになります。
赤字でなるべく支出を減らしたいときでも、必ずかかるランニングコストの部分です。
しかし、個人事業主の場合は自分で申告をする人も多いので、税理士報酬が発生しないのもポイントです。
ただし、個人事業主でも、消費税課税事業者の場合は(インボイス登録した事業者も含む)、赤字でも消費税が発生することがあるので注意が必要です。
個人で建設業許可を取得するデメリット

個人で建設業許可を取得するデメリットは、以下の通りです。
- 法人と比べて信用力が低い
- 後継者に建設業許可が引き継がれない
- 銀行からの融資が受けにくい
- 人材登用が難しい
それでは、個人で建設業許可を取得するデメリットについてご説明しましょう。
1 法人と比べて信用力が低い
個人事業主として建設業許可を取得するメリットもありますが、法人と比べるとどうしても信用力が低いというデメリットがあります。
個人事業でも、施工能力や経験値が高いケースもありますが、組織として継続していくという点から法人と比較すると、社会的信用が劣ってしまい、大きな金額の仕事を受注できないケースもあります。
実際に、500万円以内の工事にもかかわらず元請業者の中には、下請業者は法人のみ、とか、建設業許可取得済みのところのみ、としているところもあります。結果的に、個人事業で建設業許可を取得しても、仕事が増えていかない、ということも考えられますので注意が必要です。
2 後継者に建設業許可が引き継がれない
個人事業主として建設業許可を取得した場合、事業主本人に万が一のことがあった場合、事業ストップになってしまう可能性がありますので、注意が必要です。
基本的な考え方としては、建設業許可は事業主本人に対して認められているものになります。
2020年10月に建設業法が改正され、建設業許可を引き継ぐ方法は「法人化」「事業譲渡」「相続」のいずれかになりましたが、個人事業をそのまま後継者に譲りたい場合は「法人化」「事業譲渡」「相続」のいずれの方法にも当てはまらないため、建設業許可を引き継ぐことはできないということになります。
ちなみに、相続で建設業許可を承継する場合は、元々許可を持っていた事業主が亡くなってから30日以内に申請し、【認可】を得ることが必要です。

事業主が突然亡くなって30日以内に認可を得られないような場合は、後継者がいたとしても一度廃業届を提出し、再度建設業許可を取得しなければなりません。
もちろん新たに建設業許可を取得するための手続きや費用が発生するため、時間も手間も費用もかかります。
法人の場合は、人の要件、資金の要件などを満たしていれば、建設業許可を更新しながら引き継いでいくことが可能です。
3 銀行からの融資が受けにくい
個人事業主として建設業許可を取得した場合と法人で建設業許可を取得した場合を比較すると、個人のほうが銀行からの融資が受けにくいことがあります。
これは、前述した「事業の継続性」と関連しており、事業主に万が一のことがあった場合、すぐに事業がとん挫する可能性が高いからと考えられます。
ただ、金融機関からの融資については個々の財務状況によって判断が大きく分かれますので、法人だからといって融資が受けられるということではありません。
4 人材の確保が難しい
建設業の人材不足はもはや社会的な問題になっていますが、実際、業界の中では人材の取り合いが起こっています。
個人事業主は従業員が4人以下であれば社会保険に加入する義務がありませんが、働く側の従業員から見ると、社会保険に加入していない会社は福利厚生の面や雇用条件が悪いと判断されやすく、人材の確保がさらに難しくなります。
結果的に将来性が低いと判断されて人材を登用するのが難しくなります。
法人で建設業許可を取得するメリット

法人で建設業許可を取得するメリットは、以下の通りです。
- 信用力が高い
- 銀行から融資が受けやすい
- 代表者が亡くなっても建設業許可を新たに取得する必要性がない
それでは、法人で建設業許可を取得するメリットについてご説明しましょう。
1 信用力が高い
法人と個人事業を比較すると、建設業に限らずどんな業界でも法人のほうが信用力があるのがポイントです。
法人の場合は会社設立手続きをする必要があり、定款作成、公証役場での認証、資本金の準備、登記手続きなど工程を経て設立登記完了となり、非常に時間と手間がかかります。
しかし、その手間と時間をかけて法人として活動するだけの恩恵は非常に大きく、個人事業との一番大きな違いは「法務局に登記がされる」ということです。
法人の履歴事項証明書(いわゆる登記簿)を取得すると、会社名、所在地、事業目的、資本金の額、役員などが確認できるので、元請け業者にとっても安心です。
2 銀行から融資が受けやすい
法人の場合は、個人に比べ銀行から融資が受けやすいのもメリットです。
銀行が融資を行う際の審査ポイントは、利益が出るか、安定して事業を継続できるかどうか、会社の資本力、代表者の経済状況などです。
個々に判断される部分が大きく、金融機関によっては、「融資より許可の取得が先」というところもあるのが現状ですが、個人事業と比較すると、法人のほうが融資が受けやすくなるということが言えます。
建設業を経営していると、入金サイトと外注費支払の関係で資金繰り、キャッシュフローが一時的に苦しくなることがありますので、融資の面から見ると法人にしておいたほうが安心感はあります。
3 代表者が亡くなっても建設業許可を新たに取得する必要性がない
個人事業主の場合、事業主自身に建設業許可が認められていたため、事業主が亡くなると原則として建設業許可の効力が切れてしまいます。
しかし、法人の場合は事業主ではなく法人そのものに対して許可が与えられますので、建設業の要件を満たしている限り、社長が亡くなったから自動的に許可効力失効にはなりません。ただし、経営の管理責任者である社長が亡くなった場合、取締役が不在になってしまうと、要件を満たさず廃業になる場合がありますので、法人でも注意が必要です。専任技術者の場合も、同様に注意しましょう。
法人で建設業許可を取得するデメリット

法人で建設業許可を取得するデメリットは、以下の通りです。
- 会社を設立する際の手続きが複雑、設立に費用がかかる
- 社会保険の負担が増える
それでは、法人で建設業許可を取得するデメリットについてご説明しましょう。
1 会社を設立する際の手続きが複雑、設立に費用がかかる
法人を設立して建設業許可を取得する場合、設立費用と手続き費用が発生するのは前述の通りです。
非常に多くの複雑な手続きが必要なので自力で手続きを行うのは難しく、場合によっては税理士等の専門家に依頼する必要性もあります。
費用としては、定款認証や登録免許税、司法書士報酬などで15万~20万円ほど、加えて資本金の預入れが必要です。資本金については、会社登記が完了したら、必要経費の支払いに充てて問題ありません。
法人設立の日数としては、だいたい2週間から1か月ほどかかります。
2 社会保険の負担が増える
法人を設立する場合、社会保険に加入する義務が発生するのがデメリットです。
個人事業主の場合は従業員が4人以下であれば社会保険は適用除外なので、加入せずに初期費用を抑えることができます。
しかし、法人の場合は必ず社会保険に加入しなければならないため、代表取締役と従業員分の社会保険料が発生することから必要経費が増えるので注意しましょう。
社会保険の負担は、思ったより重いものです。役員報酬や従業員の給与を決定する際は、社会保険の負担がどれくらいになるか考えた上で決定するようにしましょう。
建設業許可は法人で取得するのがおすすめ!その理由とは?

ここまで、建設業の許可を個人事業で取得するか、それとも法人で取得するかを比較してきました。
結論としては、建設業許可は法人で取得するのがおすすめで、その理由は以下の通りです。
ただ、前提として事業規模や業種など、会社によって様々ですので基本的には個々の判断になる点はご注意ください。
- 個人事業を途中で法人化すると費用がかかる(建設業許可の取り直し)
- 事業が継続しやすい
- 節税になる
- 有限責任になる
- 人材を採用しやすくなる
それでは、建設業許可は法人で取得するのがおすすめな理由についてご説明しましょう。
個人が法人化すると費用がかかる(許可が取り直し)
個人事業主で建設業許可を取得してから法人化する場合、建設業許可を再取得する費用と手間が発生します。
というのも、法人化する場合は個人事業主として取得していた建設業許可は無効になり、新たに取得し直さなければならないからです。
建設業許可を取得する場合は申請手数料だけで9万円の負担が発生します。
つまり、個人事業主として建設業許可を取得する際にかかった費用と、法人化する際に取得し直すための費用がかかってしまうのがポイントです。
事業が継続しやすい
法人は組織ですので、たとえば社長に万が一のことがあったとしても、すぐに工事ストップとはなりません。工期が決まっていて、仕事の完成を約束するという契約形態の建設業ということを考えた時に、事業が継続しやすい法人のほうが向いているということが言えます。
節税になる
個人事業主の場合は、売上から経費を差し引いた所得に対して所得税が発生する累進課税ですが、法人の場合は法人税の税率は一定です(ただし、資本金の額によって区分があります)。
所得(繰越利益剰余金)が大きい金額になることが見込まれている場合は、累進課税ではない法人のほうがおすすめとなります。
有限責任になる
有限責任とは、株主(合同会社であれば社員)が、自分が出資した金額の範囲内で責任を負うことです。
法人化して有限責任になると、万が一会社が倒産してしまったとしても、出資した金額以上の責任を負うことがありません。
個人事業主の場合は有限責任ではないので、万が一倒産してしまうと事業に元入れした金額以上の責任を負うことになるため、万が一のときのことを考えるなら法人の方がお得です。
人材を採用しやすくなる
法人は必ず社会保険に加入しなければならないため、福利厚生がしっかりしているというイメージがあり、個人事業よりは人材を採用しやすくなるのがポイントです。
ただし、現在は多くの建設業者が人材不足に頭を悩ませているのが実情です。法人にしたら従業員が集まるかといえばそんなことがありませんので、募集の工夫や会社のアピール方法、魅力的な会社にするためにどうすればいいのかなど、普段から考えていかなければなりません。
建設業許可のことで迷ったらWith.行政書士法人へ

まとめ
・個人、法人ともにメリット・デメリットがあるが、比較すると法人で建設業許可を取得するのがおすすめ
個人事業主または法人どちらで建設業許可を取得したほうがいいかを考えたときに、どちらにもメリットやデメリットがあります。
どちらかと言えば法人で建設業許可を取得するのがおすすめですが、経営の規模感や、業種、工事の種類、代表のお人柄など、様々な面から考えて決める必要があります。
建設業のことで悩んだ場合は、ぜひWith.行政書士法人にご相談ください。
これまでの経験と実績をもとに、「会社の未来」と「現在の足元」両方を見てアドバイスいたします。

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